運動療法

 運動療法とは、実際に体を動かすことによって症状の回復を促してあげる方法になります。
 この運動療法には、人が体の一部を動かしてあげる「他動的運動療法」、人が補助しながら動物自身が運動をする「補助的運動療法」、人の補助を必要とせずに動物自ら運動をする「自発的運動療法」に分けることができます。

1.他動運動

 他動運動とは、人が動物の体の一部を動かしてあげる方法で、麻痺が見られる子や関節疾患や骨折等で患肢をあまり使わない子に対してとても有効なリハビリになります。

 他動的関節可動域訓練(Passive range of motion:PROM)は、主に関節の可動域の回復や維持を目的として行われ、無理に可動域を広げるのではなく、やさしく動かして、少しずつ可動域を広げていきます。

 屈伸運動は患肢を屈伸することによって、関節可動域の改善や筋力の強化を行います。麻痺の動物には有効ですが、骨折などの手術後にはある程度状態が安定してから行います。

 自転車漕ぎ運動は患肢の足先を持ち、まるで自転車を漕いでいるかのように円を描くようにすべての関節を動かす運動です。これは可動域を広げたり、筋力を強化したりするだけでなく、歩き方を再び覚えるためにも重要な運動になります。

 引っ込め反射の誘発を行うことにより、使わなくなっている筋肉が萎縮してしまうのを防いだり、神経と筋肉両方の機能を改善させたりする効果があります。

2.補助的運動

 補助的運動とは、人が補助しながら動物が運動するもので、椎間板ヘルニアなどの脊髄疾患で麻痺が見られる子に対して、起立させる運動や歩行させる運動を行います。

 起立訓練は後肢に麻痺が見られる子のリハビリとしては第一歩の運動になります。お腹をささえてあげて、しっかり立った状態を維持させ、起立した状態を覚えさせます。少し自力で起立できるようになりましたら、支えている手を放して、自力での起立を促します。

 歩行訓練は自力での起立が少し可能になった子に行います。起立自体が自力でできないと、後ろ足を引きずった状態で歩くことになりますので、逆効果になってしまいます。
 歩行訓練では主にタオルとかでお腹を支えあげて、自ら歩くことを促します。

 カートセラピーはカートを用いて歩行訓練を行うものになります。タオルを使用した歩行訓練は人の方に負担が大きいため、長時間続けることは困難になります。そのため、車いすを補助的に装着し、歩かせることでリハビリを行います。
 この方法はある程度車いすを装着しても自分の足で歩いてくれることが大事で、あまりにも自力で歩行できないと車いすのみで歩行してしまったり、性格によっては車いすを頼りきってしまったりするので、注意深く行うことが大切です。

 バランスボールを用いた運動は主にバランス感覚の改善に有効なリハビリで、初めは安定性の高いフィジオ・ロールを用い、次により不安定さを出すためスイス・ボールを用います。

 バランスボード運動は、バランス感覚の改善に有効なリハビリで、バランスボードの上に乗せて、バランスを取る運動を行います。

3.自発的運動

 自発的運動とは、動物自ら動くことによって行うリハビリ方法で、関節の可動域の改善や筋力のアップ、麻痺している患肢の機能改善といった効果が期待できます。

 引き紐を用いての歩行は、リードをつけて無理なくゆっくりとしたスピードで行います。このリハビリは、筋力の強化や、足を正しく床に着く訓練、自力で歩く訓練を目的として行います。

 トレッドミルは歩く床の上を歩かせて行うリハビリのことで、普通に行う場合と水中で行う場合があります。床が動くことで、動物を強制的に歩かせ、自力で歩けるように促します。大腿骨頭切除や前十字靭帯断裂などの術後の回復目的や、椎間板ヘルニアなどの神経疾患で特に有効です。
 水中の場合は浮力が生じますので、負担を少なくして行うことができます。

 座り立ち運動とは、「お座り」の状態と普通に四肢で立っている状態を繰り返す運動になります。これは股関節や膝関節の可動域に制限がある子に有効になります。

 ジグザグ歩行とは、ただ歩かせるだけでなく、ジグザクになるように歩かせます。そうすることにより直線の動きでは使用することない筋肉を使用したり、関節の動きをしたりします。それによりバランス力のアップや神経の活性化につながります。比較的負担のかかる運動ですので、ある程度自立して歩ける子に行います。

 ジョギングとか少し速足で歩かせる方法で、心肺機能の強化や筋力の強化の目的で行います。

 階段の上り下り坂道の運動は上りであれば後肢に関わる関節や筋力の強化、下りであれば前肢に関わる関節や筋力の強化目的で行います。平坦ではないので、負担がかなりかかるため、術後2~3か月経過して、しっかりと状態が安定してから行います。

 カバレティ・レールは一定の間隔で一定の高さの棒を置き、ハードル競技のような形にして、それをゆっくり飛び越えるように運動させる方法です。これは屈筋に優れており、肘や膝などにとても有効なリハビリとなっています。

 水治療法はプールや水中トレッドミルを利用したもので、水の浮力を利用してリハビリを行います。水の中で動くにはある程度抵抗力が発生するため、この運動をすることで筋力も鍛えることができます。

 ダンシングとは体を支えて後ろ足だけで前後左右に歩かせる運動になります。これにより後肢の筋力アップやバランス感覚の強化を行うことができます。